土庄の石井レンタバイクで、スクーターを借りる。
島内にはバスば走っているが、路線によっては1時間に1本とか、場合によってはそれ以下。行ける場所が限られている。値段も安くはない。
一日くらい、自由に動いてみようというわけだ。

小豆島の中央は山になっている。最高峰はの星ヶ城山で標高816mだ。これはちょっとした標高だと思う。千葉県に住んでいた私としては、この小さな島でそんなに高い山があるのは、素直に感心してしまう。(千葉県の最も高い標高は408m。全都道府県中、最低。)

島の中央から少し西、中山地区は農民歌舞伎の舞台もある里山だ。棚田があるというので是非観たいと思った。



そこは心休まる里山の風景だった。既に多くの田圃の稲刈りは終わっている。あぜ道には曼珠沙華の花(彼岸花)が咲いていた。

棚田は観る分には素敵な風景なのだが、ここで稲作をする人にとってはしんどそうな場所だ。崩れてくるところがないように棚田自体の手入れも大変だろうし、効率良く大型のトラクターを入れることも出来ない。棚田で稲作をするのは結構な労力だと思う。経済的な見地では効率は確実に悪いはずだ。しかし、--少なくとも他所からやってきた私にとっては--実に魅力的な風景だった。棚田には保水力があるという。作るときには山の木を切ったはずだが、自然へのダメージが少ないのだ。このような先祖から受け継いだ土地を大事に守っているのは、実にいいなと思う。

ところは変わるが、熊本。此処では今でも「加藤清正は土木の天才」と言われているらしく、彼の作った護岸はいまも現存している。近年その護岸を取り壊して、新しい護岸を作ったりすることもあるらしいが、新しい護岸が2,3年で壊れてしまうのに、清正公の護岸がびくともしないということがあるらしい。今、ダムの建設が問題になっているけど、ダムも「2,3年で壊れる新しい護岸」のような存在になってしまうのではなかろうか?実際、過去に建設されたダムは沢山の問題を抱えている。まずダム建設地の村や町を破壊してしまう。出来上がった後も、魚が遡上しなくなり、放水される水が冷たくなり、水が濁り、下流の水量が減る。その川の自然は確実に弱くなる。ダム自体に土砂が堆積して、浚渫をしないとダム自体の目的すら果たせなくなることも予想される。

棚田に話は戻るけれど、棚田はもともとは人が自然に手を入れたもので、自然を作り替えている。しかし、これは何年もかけてゆっくり作り替えて来たわけで、その後長い間、自然との調和を乱さなかったという実績もある。今問題になっているのは、人間の活動が急に活発になってしまった結果、その負荷が自然にかかってきていること。人間が予想しない方向に自然が変化してしまっている。人間は自然に手を入れるものだし、現代の科学技術や土木技術を否定するわけではない。しかし、それがあまり上手くいかなくなってきたのも事実だ。もう少し、ゆっくりと、先祖の知恵も尊重しつつ自然に手を入れた方が良いんじゃなかろうかと。

そんなことを、棚田を観ながら考える。理屈はともかく、素晴らしい風景だった。






護国寺は小豆島のほぼ中央に位置する寺で、正式名称は「弘法の滝護国寺」らしい。真言宗のお寺。観光客はあまり来ないようだ。



境内から森の中へと続く石段があり、これを少し登ると龍の頭のようなところから水が滾々と流れ溢れている。軟水で実に美味しい水だった。かなり標高の高いところにある寺なのだが、この水はわき水らしい。日照りの時にもいままで水が枯れたことがない。この寺に本堂らしきものは見あたらなかった。実に小規模な寺で観光客が好むような場所では全くないかもしれないが、なぜか分からないが、なんとなく良い気持ちのする場所だった。パワースポットというものがあるのなら、こういうところなのかなとふと思う。
寺務所で、この寺を管理しているらしい方(女性)に話しを伺った。この寺のある場所の地形は北と南を山に囲まれており、高野山に似ているとのこと。「東京からいらしたのですか。この場所にあなたがいらしたのも、なにかの縁です。きっとお釈迦様のお導きです。」ということを自然な感じで仰っていた。オレンジジュースとスナック菓子3つをいただいてしまった。

ここから、蛙ヶ池を経て標高776mの四方指(しほうざし)方面へ抜けようと試みる。道があるのか不明なのだが、なければまた戻るだけだ。



かなりの山道。途中、猿が道で座っていたりする。舗装がなくなりダートになる。スクーターはダートを走るためには作られていないので、かなりしんどい。
そもそも、このスクーターかなり難がある。前輪のディスクブレーキが曲がっているのか、ブレーキを掛けると「ガッガッガッ」ともの凄い振動がある。後輪のドラムブレーキは問題ないのでそちらばかり使っていた。前輪のブレーキは怖くてとても使えたものではなかった。スクーターで山を登るのはそもそも無理があるというのは分かっていた。急な坂道を登ると、恐ろしいことにフルスロットルでも20km/hちょっとしか出ない!これでは厳しい。というより、スクーターが哀れ。
そうはいっても、頑張って貰わないとこっちが困るので、馬車馬にむち打つ。蛙ヶ池付近では何度か行き止まりの道に入ってしまった。両脇から草が生い茂っているようなダート道に入っていく私が悪いのだが、引き返すしかない。ところで、こんな道の脇でも、U字に護岸工事をされた用水路が整備されていたりする。それも結構新しい。山奥でなんのためにこんなものを作ったのか分からない。もしかすると豪雨時の土石流対策なのかもしれないが、税金の無駄遣いかもしれない。

やっとの思い出行き着いた四方指の展望台の風景は素晴らしかった。草壁港の町並みや内海湾を遠く見下ろし、その彼方には四国本島が見える。人がほとんどいないので、ゆっくり堪能できる。翻って、有名な観光地、寒霞渓はかなりの混み具合。ロープウェーがあるので便利なのだが、私は此処でどこを観たらよいのか分からなかった。あまりに観光地化してしまっている印象。土産物屋がやたらと混んでいる。



スクーターを返すとき、レンタバイク屋のご主人が面白いことをいっていた。「日本人も遊び上手になったきた」と。

「なぜですか?」

「最近は客が土庄港からここまで歩いて来おる」

土庄港からこのお店まではバスがあるが、徒歩だと20分程だそうで、荷物をもって歩くのは結構大変そうだ。
なるほど。面白いことを言うなと思った。