コンポージアム2008の為に来日しているスティーブ・ライヒのコンサートに行った。いやはや、スゴイ人気だった・・・。チケットは早々に売り切れ、当日券も全く出ない状況。私もライヒが来ると言うことはかなり前から知っていたのだが、気づいたらチケットは完売御礼・・・。諦めていたところ、某Sさんがチケットを手配してくれた。本当にありがとう(涙)

残念だが、現代音楽の音楽会で、大ホールが埋まることはなかなかない。だから、満員・・・これは極めて異例なことなのだが、それ以前に、そもそも観客が異例。クラシックの範疇に属するコンサートとは思えない客層で、年齢層も非常ーーに、若い。ライヒは「リミックス・ライヒ」というCDも出ているくらいで、電子音楽のジャンルの人たちにも人気が高まっている。また、彼の音楽のジャンル「ミニマル」はクラシックの現代音楽の「ミニマル」だけど、クラブミュージックにおいても「ミニマル」というジャンルがあり、簡単に言うと、ハードなハウスみたいな感じ。両者は聴けば全然違うのだが、共通するところもあったりする。で、今日は、クラブ系とおぼしき、うら若き!?男女たちも沢山いたのだ。みんなライヒのファンなんだ。なんだか、みんなとってもお洒落に(たぶん)見えた。

そして、後半の曲「18人の音楽家のための音楽」が終わると、あり得ないくらいのスタンディングオベーションで、ブラボーの嵐。ちょっとライヒを神格化しているんじゃないかという恐れも感じないわけではなかったが、まぁ私もその中の一人かも。

1曲目は「ドラミング パートI」。素晴らしかった・・・。アフリカのリズムに影響されたというこの曲は、ドラム(ボンゴ)だけで演奏される。生演奏で聴くのはもちろん初めてだが、ホールのアンビエント感がCDでは味わえない空間を作ってくれる。聴いていて「あぁ、アフリカなんだ」と分かる。そんな演奏。いやぁ、良かったなぁ。この曲はフェーズ(ずらし)というテクニックを使っている。これは、ライヒの初期に用いられていた技法で、二つの楽器が同時に同じフレーズを演奏しているのだが、片方が微妙に速くして、だんだんとずらしていくというもの。ずれるとどうなるかというと、メロディーやリズムが変化して聞こえたり、二つの楽器の合わさった倍音が変化して、演奏していないはずの音が聞こえてきたりする。これは演奏するのが難しい!ピアノフェイズという曲を、弾いたことがあるのだが、なかなか少しずつずらしていくというのは大変なもなのだ。これをライブで聴けたのは貴重だった。あーホントにやってるよー、という感じ。ライヒは近作ではこのテクニックは使っておらず、それは恐らく演奏するのが大変だから。ただ、ミニマルの純粋性をこのフェイズに求める人もいるくらいなので、ミニマルにとっては重要なテクニックだと言える。

2曲目プロヴァーブは初めて聴いたのだが、私には良く分からなかった。残念。ドラミングとは別の意味で、難しい曲なのだと思う。ミニマルは細かい音符が沢山あるのが一つの特徴だと思うが、この曲はスロー。どちらかというと、聴かせるタイプの曲。丹念にレコーディングされたものを、短いテキストと併せて聴けば、印象も変わってくるかも知れない。この曲のテキストはヴィトゲンシュタインの「反哲学的断章」からとっている。

最後の曲「18人の音楽家のための音楽」はライヒの代表作と言われている曲で、約10年前に来日し、埼玉でコンサートをしたときにも演奏されている。その時も聴きに行ったのだが、10年経ってまた聴いてみると「ミニマルも身近になったのだなぁ」としみじみ思う。私自身がだいぶミニマルを聴きこんだこともあるかも知れないが、少なくとも特別な音楽ではなくなった。多分、聴き方が普通の音楽と少々異なる。音空間に身を浸すというか、メロディーを追うとかそういう聴き方ではなく(もっともメロディーらしいメロディーはないが)、音と音の織りなすタペストリーの描く風景に感じ入る・・・。曲の出だしから、なぜか私は「にやけ」てしまい、60分の大曲があっという間だった。色々な風景を聴かせてくれる。やはりこの曲はライヒの代表作か?一番好き。

現在、72歳のライヒだが、再び来日することを期待したいのだが、願わくば、他の演奏家による演奏機会も増えますように・・・。ミニマルがもっと身近な音楽になりますように!