今日は、YAMAHAさんのご好意で、新しいピアノCF4とCF6を弾かせていただきました。場所は銀座ヤマハ店の1階のステージです。
銀座ヤマハ店は最近リニューアルオープンしたのですが、この新しい店舗の1階ステージは吹き抜けになっており、大きな窓から銀座通りがよく見えます。
銀座通りを眺めながらピアノを弾くというのはなかなかない体験でした。

さて、CF4とCF6ですが、CFというアルファベットはヤマハのピアノにとって特別です。一言でいえばCFはコンサート用のピアノです。コンサートピアノというと長さが280cm位ある「フルコンサート」という一番大きなピアノがまず思い浮かびます。コンサートホールにあるピアノはほとんどこの大きさのピアノです。ヤマハはこのピアノにCFという名称を用いてきました。

ヤマハとしては「私たちのピアノといえば、このピアノです」と自信を持って言えるであろう、いわばフラグシップモデルと言っていいでしょう。

では、フルコンサートではない、もう少し小さなタイプのピアノはどうなのかというと、そのようなピアノにはC4とかG6などという名称が用いられてきました。CFという名称は付けられていません。このようなピアノは、コンサートホール向けではない、いわゆる一般向けです。

今回の新しいピアノCF4、CF6をこのように考えてみると、YAMAHAが世に問うコンサートクオリティーのピアノでありかつ、フルコンサートとは違ったもう少し小さめなピアノということになります。恐らくYAMAHAの職人さんが腕によりをかけて、最高の技術をつぎ込んで作っているのだと思います。

値段も今までのものと大きく違います。CF4で1,150万円程、CF6が1,300万円程です。この価格帯は世界的に最もコンサートホールに置かれているピアノ、STEINWAY & SUNSと同じか、いや、むしろそれより若干高いものです。CF6とSTEINWAY & SUNSのB-211モデルは仕様としてはとても近いのですが、CF6が1,300万円程で、B-211が1,200万円程です。もろにかぶっています。これはYAMAHAにとっては大きな挑戦です。

さて、弾いてみて思ったことを徒然なるままに書いてみます。

和音を弾いて複数の音が重なり合ってうねった時の響きが豊かに感じました。この豊かさは今までのYAMAHAではなかったものではないかという気がします。一般に日本のピアノは単音では綺麗な音が鳴るのですが、和音になったときの響きの豊かさや深さという点で少々物足りなさを感じることがありましたが、このピアノはそのような物足りなさを感じることがありませんでした。ごく簡単に言って、ヨーロッパのピアノに近いと思いました。

そして、弾き易いピアノでした。世の中には「扱いにくいな」と感じるピアノがあり、音は良くても、思うように制御するのが難しい「気難しい」ピアノがあります。このピアノはそんなことは全くありませんでした。とても素直だと思います。

また、特にCF6ですが、大きさの割にパワーがありました。低音が思ったとおりに鳴ってくれて、その音に迫力がありました。この迫力というのは一般的にピアノの大きさに比例すると思いますが、CF6の大きさで、しかも新しいピアノなのに、これだけ鳴るというのはなかなかないのではないかという気がします。フルコンサートを弾いているようなスケールを感じました。反面、C5〜C6辺りのメロディー音域の音がもう少し立っていて欲しいです。これは、ピアノの問題というよりも基本的に調整の問題だと思いますし、割とこの音域の音を柔らかくする調律師さんがなぜか多いのでこんなものかもしれません。私の好みでしょう。

ところで、ピアノはきちんと手入れをすれば100年程度弾くことができます。意外と長持ちなのです。そして、一番良くに鳴るのは、大抵の場合作られたばかりではなく、それから何十年も経ってからです。最初鳴りがイマイチだったとしても、弾いていくうちに良くなってくる可能性はありますし、逆もまた然りです(ですから、新品ピアノを買うより、中古ピアノを買うほうがある意味安全だという調律師さんもいます)このピアノがこの後どのように変わっていくのか興味深いです。日本は高温多湿ですから日本にあるヨーロッパのピアノはことさら管理に気を使うと思うのですが、YAMAHAの場合日本の高温多湿をよく知っていますから、日本で弾くということを考えると良い選択かもしれません。

ピアノを弾いていると「このピアノを持って帰りたい」と思うことがあります。

例えば私の場合以前千葉の楽器屋さんで弾いたSTEINWAYのO-180や、群馬のピアノサロンでのFAZIOLI(イタリアのピアノで比較的新しいピアノメーカー)がそうでした。ホールに設置してあるピアノは別格ですが、そう思うことももちろんあります。こういうのは、なにが良かったとか説明できることではない直感的なもので、一種の一目惚れみたいなものだと思います。ピアノの持っている表現の深さ、幅に驚き、ピアノが出してくれる音との対話にスッと入っていけるような、弾いている側にとって思わず音の世界に夢中になって弾き続けてしまう・・・そんなピアノです。

で、今日のYAMAHAがそういう「今すぐ持って帰りたい!」ピアノだったかというと、残念ながらそこまでのインプレッションは受けませんでした。これは直感的なもので、「どこがどうだから」と理路整然と理由を述べることは(私には)出来ませんが、そう思いました。もっとも、もう少し落ち着いて弾ける環境で弾くことが出来れば、印象も変わったかも知れません。細かい音の響きまで聞き分ける環境ではありませんでしたから。

もし私が1,000万超のクラスのピアノを買うとしたら、まずFAZIOLIを探し、併せてSTEINWAYも考えることになると思います。
これは、このYAMAHAのピアノを弾いた後でも変わらないと思います。しかし、上に書いたように、経年変化の問題、気候の問題もあります。もう少し時間が経って、個体を見極めればYAMAHAのピアノも選択肢に入ってくるかも知れません。

いずれにせよ、日本のピアノメーカーからこのような意欲的なピアノが出てきたことはとても嬉しいです。Factory Madeではない、欧米のメーカーと正面から勝負できるピアノとして、今後が楽しみです。